東レ
2004/12/17
東レ㈱は、このたび、従来のプラスチックの100倍以上という世界最高の熱伝導率を有する熱可塑性プラスチックの開発に成功した。この高熱伝導熱可塑性プラスチックは熱伝導率(*1)の高さにより、熱を蓄えず拡散?放出することができるため、従来のプラスチックでは採用されなかった様々な製品分野への展開が見込まれる。
アルミなどの金属やセラミックスなどに比べて、軽量、静粛性、低コスト、複雑形状品を高効率で成形することが可能であり、その特長を生かして、OA?AV機器における光ディスクの光ピックアップ部品や機器内部のケース類など、金属に替わる用途展開が期待できる。また、高い寸法安定性を生かした光ファイバー接続部品などのセラミックス代替製品としても有望であると考えられる。その他、電気?電子機器や自動車などのパーツ材料用途を中心に、1年以内の製品化を目標として試験生産体制を整え、サンプル供試と市場評価を開始した。
今回開発した素材は、独自の分子設計により熱可塑性プラスチックとフィラー(混合?充填する無機粒子)間の分子間相互作用を高め、フィラー間の高効率接触を実現することにより熱の通り道「導通パス」を形成させ、熱伝導率を大幅に向上(25W/mK以上)させることに成功した有機?無機ハイブリッドの先端材料である。
従来の熱伝導熱可塑性プラスチックでは、熱伝導性を高める目的でフィラーを多量混合する手法が主流だったが、これによりプラスチックの流動性が大幅に低下し、複雑な精密成形品を生産性の高い射出成形法で製造することが困難だった。しかし、本素材は分子間相互作用を高めたことにより、成形加工時の流動性も格段に向上し、複雑な形状の精密成形品でも容易に成形することが可能。さらに、得られた成形品は、フィラー充填構造の緻密さにより、熱伝導性ばかりではなく、従来のプラスチックでは得られないセラミックス並みの寸法安定性(低線膨張率*2)をも実現した(8ppm/℃)。また、熱可塑性プラスチックをベースとするため、成形品の再溶融加工が可能で、リサイクル性にも優れている。
現在、プラスチックは、軽量、耐錆性、形状の設計自由度等の特長を活かして、電気?電子部品分野でも広く使用されている。一般に、プラスチックは熱伝導率が約0.1~0.3W/mKと低く、断熱?絶縁材料としては優れているが、近年、電気?電子部品の小型?高集積化が進んでいることから、機器内部で発生した熱がプラスチック部品に蓄熱され、外部に放熱できないために製品設計に制約が生じるケースが出てきている。そこで、熱伝導率向上に関する研究開発が盛んに行われるようになったが、これまでは一般プラスチックの10~25倍(2~5W/mK)程度の改善が限界だった。
東レは今後、本素材を家電?OA機器分野及び自動車分野など、高放熱性や軽量化?省エネルギーが期待される分野へ本格展開を働きかけていく計画である。さらに、本ハイブリッド技術を応用して、種々のフィラー多量添加による高機能プラスチックの創出に取り組んで行く。
*1 熱伝導率(W/mK);物質内での熱の伝わりやすさを表す量で、加熱面に対して垂直な方向に流れる熱量を1K(℃)当たりで示したもの。
*2 線膨張率(ppm/℃);長さが温度上昇によって膨張する割合を、1K (℃) 当たりで示したもの。